Love me , love me more
愛しさが、欲しかった。
何も言わなくていい、何も感じなくてもいい。ただ自らの感情をさらけ出したその声と、間違いを犯してもなお許しを乞わないその姿のままでいて欲しかった。貴方が何を求めようと勝手で、貴方が私から離れてもいいと。それが自然の摂理なら仕方ないと。貴方が生きていれば、その愛しさがあると信じていた。だから、貴方に手を差し出して約束させたのだ。
聞こえるはずも無い声を辿って、見えないはずの姿を追って。いつだって立ち止まって振り向いてくれる訳ではないのだから、もう探さないと決めた。記憶の中の貴方の声と姿に、愛しさをもう見つけたのだから。もういいんだと。
それでも人の願いは通らない。自分の決めた道が崩れていって、別の場所へと歩まなければいけないこともある。
その声と姿に、何度記憶を手繰り寄せただろうか。
復讐を遂げてしまった子供は、唐突に大人へと変わる。
ここにいたいんだと、声は出なかった。自分へと許しを乞うていた。
そう、それはいつものあの人ではなかった。愛しさは、何処かへと消えてしまったのか、或いは。嫌な予感がして右手を掴めば、髪が床へとこぼれ落ちるように項垂れた。手に力を込めれば、やけに金属音が甲高く鳴り響いた。石造りの廊下では酷く響いてただただ耳障りだ。
その涙を飲んで、唇の乾きを無理矢理潤す。もう何も言わせない。まだ泣き止まない大人びた子供の頬に手を当てた。空を鮮やかに映す瞳へ、自分の瞳の色が濁ったまま重なって見える。
愛しさを求めすぎれば、人は自分の決めたことなど砂のように忘れる。
愛しさを愛してしまった、とある青年のお話。