Streptocarpus 

 冬は季節の中でもとびきり大嫌いな季節である。商品の質も一気に落ちるし、客は来ないし、寒いし寂しいしとにかく景観も心の内も暗い世界だ。春になるまで一人淋しく過ごしたこともある。勿論年によって違う――とある年は小さな狐が怪我を癒やすために店に潜り込んで来て、春になるまでの一ヶ月間を共に過ごしたこともある。それはそれは楽しかったし明るい世界だったはずだ。
 今日は、棺がやって来た。中は見えないが、持ち上げる人も周りを歩く人も、皆一様に顔をうつ伏せて表情が見え辛い。思い半ばにして命が途切れた人も、中に入るのだろうか。綺麗に咲いたアマリリスの花弁の、白の美しさと黒の棺はやけに相性がよくてじっと見守っていた。
 通る人々が一斉に手を合わせ、お辞儀をし始める――なんだか自分もしなければならない気になり、慌ててカウンターから手を合わせてみた。癖できゅっと目をつむり、次に目を開けた時にはその葬列は姿を消してしまう。この吹き荒び始めた雪にでも飲み込まれてしまったのだろうか。

 しなだれた樹の枝が、やけに近く感じる。店の前を覆いかぶさるようにして落ちた雪をなんとか退けて、またカウンターから銀世界を見守った。今日もお客さんは来ないかもしれない、あんな葬列が通ったら、こんな通りを通る気にはなれないかもしれない。寝ていいかな、誰に問いかけることもなく、カウンターに顔と腕を乗せて瞼をゆったり閉じる。

ストレプトカーパス:花言葉は「この囁きを聞いて」。


Dusty mille 

 まだ雪解けまでには時間がかかりそうな、とある深冬の頃。店先に相変わらず積もったままの雪をかき分けて、私は冷たくなった手を外へと伸ばす。相変わらず指先に触れるのは、冷たく細かな雪だ。夏にはあんなに鬱陶しがっていた陽の光でさえ、今は恋しくなるほど久しく見ていない。まるで遠い伝承に聞く、海向こうの国のようーーそこにはずっと曇天を背負う街があるというから、きっと住まう者たちは今の私のように太陽を欲しがっているだろう。名はなんと言ったか、太陽の沈まない彼の国。
 とりあえず目の前のものを掴んでみると、しゃくりと小さな音、それに続き冷たい感触が手に伝わる。どうやら、また雪を掴んでしまったらしい。仕方がなく手を引っ込め、炬燵の中に突っ込んでみた。温かい、当たり前だ。
 ここの冬は、本当に生き物の生が感じられなくなるほど、色んなものの気配が消えてしまうらしい。だから本当に自分がひとりぼっちのようで、抑えていた寂しいという気持ちが全面に出てきてしまうのだ。
 早く、春にならないのかな。そんなことを思いながら、店の中で健気に咲く白銀色の葉に包まれた黄金を眺めた。彼女もまた、きっとこの長い冬が終わるその時を待っているだろう、そうだと信じて。

ダスティーミラー:日本語名、白妙菊。花言葉は「貴方を支えます」。

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