41
俺を置いていくな。俺より先に死ぬな。俺と共にいろ。紅の髪を持つ主は何度も繰り返した、自らの騎士に言い聞かせるように。初めて出会った日からずっと。
「死ぬなよ」
「お前こそ」
小指同士を絡めた幼き日の約束。幾万と交わしてきた同じ約束を、拳をぶつけて今日も交わす。
42
貴方はもうここにはいない。
貴方が使っていた古びた羽ペンも、汚れたインクの小壺も、机の上に置かれたまま。ふと目をそらせば、その椅子の上に貴方が座っているんじゃないかと錯覚しては、ただ空虚な空間に嗚咽を漏らす。守れなかったその主の姿をただ一人、幻に見ながら。
43
貴方の夢が叶うまで側にいさせてください。
貴族が騎士に膝を折るなど、本来ならあってはならないこと。それでもその貴族は、自らが望んだ通りに振る舞う。
貴方が戦うなら私も戦いましょう。貴方が守るなら、私も守りましょう。だからお願い。この世界に絶望したまま死なないで。
44
貴方はここにいません。貴女もここにいません。けれど私はまだここにいます。
少女は大人になって自ら剣を手に取る必要があった。そうしなければ失われた名誉は取り返せないから。
私は貴方と貴女のために戦います。反逆の狼煙を上げ、貴族を捨てて騎士として戦い抜くと誓います。
45
ぽとり、ぽとり。沢山の花びらが冷えていく中、首から落ちて頭を無くした花があった。縁起でもないとよく言われ、疎遠される可哀想な花。養分を吸うことが出来なくなった花は、もう枯れることしかできない。必死に元の場所へしがみついていたのかも、と思うと逆に健気な花に見えた。
46
貴女が見えなくなれば僕は探す。貴女が逃げれば僕は追う。立ち止まって、息を潜めて、時には手を伸ばすのを我慢して。風が吹く度に貴女が遠くにいってしまうと怯えて。
風の無いタイミングを狙って木の幹にやってきた。やっと捕まえたよ。リスは一匹、枯れた葉っぱを抱いて帰った。
47
誰も彼もが欲したものを、君は受け取らないというのか。職人に問われた少女は頷いて店の外へと出た。「私には必要ない」そうだ。少女のために、最後の最後まで残しておいた首飾りを掴み炉の炎へ。
――幸せの首飾りは他人の幸せを吸い込む。だが、幸せを自ら掴む少女には必要ない。